中小企業診断士5年目更新を終えた今、ちょっとゆっくり過去を振り返ってみて、過去の経験の棚卸をしてみたいと思い立ちました。私自身の心の整理もありますが、これから中小企業診断士を目指して勉強される方や、最近合格されて、これからをどう過ごすかを考えている方の参考になるかもしれないと思ったからです。
数えてみると、登録前の15日間の実務補習(5日×3回)と、登録後のプロコン塾等(6~7日×4回)で、合計7回・7社の企業様を診断させていただいた経験があることになります(窓口相談業務は除く)。各々の企業様の業界は多岐にわたり、少なくとも、自分が今の会社に勤めている限りでは決して出会えないような企業様ばかりでしたね。
企業様はもちろんですが、実務補習の中で出会えたメンバーたちも、様々な業種のいろいろな個性を持った方々が多かったです。こうした出会いも貴重なものでした。
こうした経験を時系列順に思い出して行き、この中からなにか気づきというか知見というか、そういった今後につながる何かを見つけられたら儲けものですし、私自身が見つけられなかったとしても、このブログの読者の方が、何か見つけられたら幸いだと思います。
何分、モノによっては7年前くらいの記憶をたどる必要があったり、また、秘密保持契約上詳細を話すことは難しいですし、何より、当時のメンバーが内容を特定して何か気分を害してしまうようなことがあったりすると(と言っても、一応、私の過去の補習はすべて一通り円満に終わった…と私は思っていたので問題ないと思っているのですが)いけないとも思いますので、ぼんやりとした表現が多発するかと思いますが、ご了承ください。
実務補習①:健康志向の飲食店様
初めての実務補習
私にとっては、初めての実務補習でした。当時私は、横浜に住んでいたのですが、なぜか東京協会の実務補習に混ぜられており、移動が私だけ少し遠めで大変でした。と言っても、私よりもっともっと遠い、長野からいらっしゃっていた方もおり、その方はこのために都内に宿泊して参加されていましたので、全然近い方だといってよいかもしれません。これは、あとで人づてに聞いた話で、あまり信ぴょう性はないのですが、神奈川県在住の場合、実務補習は15日コースを取ると神奈川協会の補習、5日コースだと、東京協会に混ぜられる可能性が高いとのことでした。横浜は比較的東京に近いというのもあるかもしれません。若干大変でしたが、東京協会でなければ得られない色々な出会いがあったので、結果的にはよかったことだと思っています。
メンバーとの出会い
実務補習は、同時にたくさんのグループが開始し、同時に終了し修了証書を渡すスタイルです。診断協会の建屋でオリエンテーションを終えた後は、グループごとにさっそく診断に入ります。グループは、先生(サラリーマンを定年退職されて独立診断士)と、自分を含め、確か6人のメンバーだったと思います。最初は名刺交換から始まりますが、この名刺交換が面白かったです。というのも、自分も、会社では名刺交換はよくやりますが、大抵は技術製品のベンダーさんや、協業先のやはり技術的なサービスを行う会社さんだったりするので、おおむね知れていて新鮮味があまりないといった感じでした。が、実務補習での名刺交換では、マスコミさんや金融業さんなど、あるいは、同じようなメーカー企業さんでも、経理部の方など、普通に仕事をしているとまず名刺交換をしないであろう方々との出会いがあったからです。
メンバーは30代くらいから50代くらいまで居りましたが、私が1番か2番くらいに若いくらいで、最年長か2番目くらいの方がリーダーに任命されました。実務補習も、5日間コースだと、私のような初回の人もいれば1回目、2回目の人も混ざっており、リーダーは大抵2回目の人から選ばれるようです。
診断内容と役割分担
診断内容は、飲食店経営者から「東京駅前にあるビルのテナントへの出店の依頼を受けているが、出店すべきかどうか」診断してほしい。という内容でした。飲食店は、比較的最近起業された会社で、関東に数店舗出店しているといった感じです。あまり細かい話をすると内容がばれてしまいますので伏せますが、健康志向を売りとした食事で売っているという感じでした。
役割分担は、こうした実務補習スタイルの場合、決められた分野設定があり、最もオーソドックスなのが、1.経営全般、2.組織・人事、3.財務・会計、4.販売・マーケティング、5.ITのような感じで、中小企業診断士の1次試験の科目割の感覚に近いです。今回のようにテーマがかなり具体的に絞られている場合であっても、やはり、網羅的に基本のスタイルで診断する所は、崩さないようです。1.経営全般は普通リーダーが担当し、財務・会計は、経理や銀行業務を業として行っている人が担当することが多いように思いますが、他は、その時のテーマによって、さらに細分化して1人か2人で担当するということが多かったように思います。今回もそうでした。その時の私は、商圏分析(上の分類でいうと3に相当)を担当しました。
商圏分析は、通常は小売店系のビジネスで行われますが、要するにそのお店に潜在的に何人お客さんがきそうなのかを分析することで、例えば、駅の近くであれば乗降人数が1日どれくらいか、集客できそうな施設がどれくらいあるか、あるいは、飲食店として競合となりそうな店舗が近辺にどれくらいあるかなどをデータをもとに分析し、戦略に反映させます。なんとなく、ガイアの夜明けなどで、特命プロジェクトを受けた部長が、出店地探しをするシチュエーションが脳裏に浮かびますが、まさにそんな感じでした。
そして、一番面白かったこととしては、実際に出店候補地の前に立って、通行人が何人くらい通るのかをカウントしたことですね。いわゆる計数器(一昔前、紅白歌合戦で、日本野鳥の会が、観客席の赤と白の数をカウントするのに使ったアレです。)を使って、担当を決めて一人1~2時間程度、ひたすらカチカチやっていたことです。なかなか、こういう機会でもないと、こういうことをやってみることがないですからね。いつもは単なる一消費者として、お買い物目的程度でしか訪れない丸の内ですが、いつもとちょっと違うメタ的視点から丸の内を眺めて、ちょっと不思議な気分になったというか、例えが変ですが、超越者としての上からの目線で眺めているようで、変質者として背徳感とともに眺めているような複雑な気分でした。
しかし、やはりなんだかんだと言っても、その候補地に自ら出向いて自分の足で情報を稼ぐのに勝る方法はないということを改めて知ることになりました。実は、商圏分析というのは、そういう誰かが足で稼いだ情報が集約されたソフトが有料で売っていたりします。もちろん、限られた時間や予算で何か結論を出さなければならない状況では選択肢の一つとして有用ではありますけど、その場に行ってみないと見えてこないものもあります。
そのほかは、JRや東京メトロの乗降人数を調べたり、もしかしたらマーケティングを専門業としている方なら日常的に行っているかもしれませんが、私は今まで一度もないですし、今後もないだろうというようなことをやってみて、大変でもあり、面白くもありました。
執筆とWordとの格闘
ある程度情報収集がおわると、議論検討ののち、報告書の執筆に入ります。執筆は基本的には各自のPCで、Wordで行い、メールベースでやりとりしたり、マージして読み合わせをしたりしながら仕上げていきます。最終報告は、基本的にはWordです。先生によっては、PowerPointだったり、その両方だったりすることもあるようですが、基本的にはWordです。
当時の私は、Wordをあまり使っておらず、そもそも、PCはMacしかなかったため、Mac版のOfficeを導入するところからはじめました。互換性の懸念もちょっとしていましたが、幸い互換性による問題はほとんどありませんでした。ただ、今は基本的にはWindowsをメインに使っています。やはりこうしたチームプレイは、足並みをそろえることが重要と思うからです。でも、6人くらいいたら一人はMac使いがいますね。こだわりですね。
さて、Wordといえば、最大の難関はインデックスと、改ページ。複数人で共同で作成するので、章立て、図表番号等が、最初に統一ルールを決めておかないとあとでバラバラで、大変なことになったりします。それから、改ページに関しても、ある章を編集すると、他の章にも影響が及んだりして、なかなかに大変です。そこで、大抵1グループに一人はいると思われる、Word職人さんが現れます。メンバーに、どんなに出鱈目なフォーマットで作成する人がいても、綺麗に統一フォーマットに直してマージし、綺麗な1冊の報告書にまとめ上げてくれるのです。これは大変助かります。
ちなみに、報告書は、おおよそ一人あたり10~20ページくらいが相場なので、すべてマージすると60~100ページを超えることもあります。この報告書がやたら長い問題については、私自身も思うところがあります。つまり、これを受け取った企業様にとって、どういう気持ちになるのでしょうかと。こんなに大ボリュームの報告書を作ってくれその労力に大変感謝すると思われることもあるでしょうが、大抵の経営者は、とてもじゃないけど全部読み切れないなと、表立っては言わないでしょうけど、内心は思っているだろうなと思ったりします。
実際、最終報告では、通常報告時間は2時間程度なので、とても全部は読み切れないので、端折りながら一人10分くらいで説明していくのですが、大抵誰かが大幅に時間オーバーしてしまったりで、肝心な質疑応答の時間が十分確保できないといったことが起こります。また、社長様も、ちょっと目が泳ぎ始めているなと感じることもあるので、悩ましい所ではあります。趣旨としては、実務補習という、診断士の卵の力量をつけるための修行のようなものなので、その意味では正しいのかもしれませんが。
最終提案と報告と打ち上げ
最終提案としては「あまり集客が見込めないため出店はしない方が良い」という方向で話をまとめ、最終報告を行ったと思います。実務補習の場合、先生がある程度結論を自分の中に持っており、それに沿うような形で提案を仕上げていくパターンと、先生がかなりの放任主義で、結論をメンバー内でだし、まとめ上げるパターンがあると思います。今回は前者だったと思います。
人によって好みはあるかもしれませんが、私は前者の方が好きですし、こうしたグループワーク自体が目的のグループワークの場合、前者の方がやりやすいと思います。というのも、限られた時間内で、最低限として、論理的な一本のストーリーとしてきちんとまとめ上げることを考えると、一人の強力なリーダーシップで、多少強引にでもまとめ上げなければ、本当にまとまりがつかなくなってしまうからです。
後者の場合は、侃々諤々の繰り返しの中で、よりアイデアが磨かれて良いモノに仕上がっていく可能性はありますが、一方でまとまりのつかないまま、時間だけがかかってしまうこともあります。というか、まとまりがつかない方が多いと思います。そういうのは、独立して自分のクライアントが持てた時に、自己責任でやるのが良いと思います。
かくして最終報告は終わり、社長さんも、どこまで深く受け止めてくださったかはわかりませんが、感謝の言葉はいただき、初めての実務補習は終わりました。初めてだったので緊張感が続いたのと、リーダーさんはかなりビシバシ行くタイプの方だったので、若干疲れがあり、それから解放されたという大きな解放感がありました。診断協会で実務補習証明書をもらい、既定の日数に達した方は、その場で修了証をもらいます。さながら、卒業証書授与式です。
終了後は、診断協会周辺の居酒屋で打ち上げ。こうした様々な業界の方々と一同に会してたわいもない話に花を咲かせるというのは、あまり機会がなく、また、やはり中小企業診断士を目指すくらいの方なので、ビジネスや、政治、経済など高尚な話が多かったです。同世代との飲み会ですと、こういうお堅い話にはどうしてもなりづらいですし、会社の大先輩との話だと、やはり武勇伝やポジショントークのような話しか聞けなかったりするので、あくまで、対等に、上の世代の方とお話ができるのは、貴重で面白かったと思います。
書き始めてみたものの、あまりにも長編となりそうだったので、やはり1話完結方式の7回シリーズにしようと今決意しました。続きは、また今度といたします。
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